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福岡地方裁判所 昭和41年(ワ)343号 判決 1967年7月10日

原告

一二六名

右訴訟代理人

諫山博

木梨芳繁

角銅立身

斎藤鳩彦

古原進

被告

博多自動車有限会社

右代表者

吉嗣正喜

右訴訟代理人

植田夏樹

国府敏男

主文

一、被告は原告らに対し別表中⑨支払額欄記載の各金員を支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、五分しその一を原告らのその余を被告の負担とする。

理   由<事実省略>

一当事者間に争いのない事実<略>

二会社の営業形体と本件ロックアウトに至るまでの労使関係

会社が一般乗用旅客自動車運送事業(いわゆるハイヤー、タクシー業)を営む有限会社であり、原告らが会社に雇用され稼働している自動車運転手で、全国自動車交通労働組合福岡地方連合会はかたタクシー労働組合(組合)に加入していることは前示のとおり当事者間に争いがなく、<証拠>をあわせると次のとおりの事実を認めることができ、右認定に反するような証拠はない。

(一) 会社は、昭和初年ごろ個人企業として創業出発し昭和一六年有限会社に組織されたが創業後間もなく国鉄博多駅構内に車両を乗り入れ、同構内において旅客を乗車させ、これを運送、営業することを認められ、右構内権の存続期間は一ケ年であるが毎年更新せられて継続し、昭和四〇年八月二〇日当時会社所有の車両総数は二〇六両、マイクロバス一両であつて、これを本社(綜合車庫―福岡市大字下臼井所在)、博多駅構内営業所(同市三社町所在)、清川営業所(同市清川所在)、六本松営業所(同市六本松所在)、作人町営業所(同市東中洲作人町所在)、馬場新町営業所(同市馬場新町所在)、瓦町営業所(同市上瓦町所在)及び二日市営業所(福岡県筑紫郡筑紫野町二日市所在)の各営業所に配置して営業し、構内営業によつてあげる運賃収入は全営業収益のおおむね三分の一以上に及んでいた。

また昭和四〇年六月当時の会社従業員総数は五六一名(うち四六八名が自動車運転手)であり、会社内には原告らが加入している組合〔本件ロックアウト当時の組合員数一三九名(うち運転手一三八名)〕以外に、はかた自動車労働組合〔当時の組合員数二八九(うち自動車運転手二〇九名)〕があり、これとは別にいずれの労働組合にも加入していない従業員一三三名(うち自動車運転手一二一名)(以下中立従業員と略称する。)が稼働しており、組合はかなり尖鋭な労働組合であつて会社と対立することが多く、例年労働条件改善要求に際しては会社に対し「臨時随所においてあらゆる形態のストライキを行なう。」旨のストライキ通告を行ない、これに基づいて数波のストライキを実行していた。

なお会社に雇用される運転手は隔日勤務の一交替制になつており、その勤務時間は、会社業務の一時的中断をさけるため個々の運転手により多少相違して午前八時三〇分ないし午前一〇時から翌日の午前八時三〇分ないし一〇時までとなつており、うち正午から午後一時まで、午後六時から七時まで、午後一一時から一二時までの計三時間は食事等の休憩時間とされ、また午前二時から午前六時までの間は疲労回復のための仮眠時間となつており、勤務の翌日は一日休むことになつている。もつとも会社と組合間にはいわゆる三六協定は締結されていない。また前認定のとおり会社は創業以来その営業の相当部分を博多駅構内営業に依存しており、タクシー利用者中には会社のことを「構内タクシー」と呼称する者も多く、会社もこれを名誉として構内営業権を重要視してきた。

なお本件ロックアウト当時は会社は国鉄博多駅との契約により常時三〇台の車両を駅構内に駐在させ、乗客の利用に供せねばならぬ義務を負つており、かつまた同駅から構内営業を認められていたタクシー会社は会社以外にも数社あつたが、これと別に当時博多駅構内の自由乗入、自由営業を主張する同業他社が相当数あつたため、会社はこの点からも構内権の確保を重視していた。

(二) 昭和四〇年春季の労働条件改善要求に関し組合の要求と会社の回答とが一致せず、数次の団体交渉を重ねたにも拘らず妥結に至らず、その間組合は三月三一日、「随時随所においてあらゆる形態のストライキを行なう。」旨のストライキ通告を会社になし、団体交渉をもつかたわら右通告に基づき四波に及ぶ時限ストライキを実行し、さらに同年五月一四日には会社本社、社屋、その他の会社営業所の建物等に闘争ビラを貼付したことは前示のとおり当事者間に争いがなく、<証拠>をあわせると、組合が右要求事項を決定したのは昭和四〇年二月二四日の臨時組合大会においてであり、また前示昭和四〇年三月三一日のストライキ通告は同年二月二六日、二七両日にわたる組合大会の決議に基づくものであり、他方会社は、経営学上損益分岐点と称せられる事業収益と事業費用の均衡する収支の交錯点を計算、推計した結果、従業員一人当り平均二、〇〇〇円を越える賃金ベースアップをすれば会社の決算は欠損金を計上することになるのは明らかで、従つて一人平均二、〇〇〇円を越えるベースアップは会社経営上不可能であると判断して、その限界点にあたる二、〇〇〇円ベースアップ案を組合のみならず自動車労組及び中立従業員はおおむね会社の提案説明を巳むを得ないものとしてこれを認容する態度に出で、これらとの交渉は昭和四〇年五月五日事実上妥結(但し書面に調印したのは同年六月五日)するに至つたので、会社としてはこれら自動車労組及び中立従業員との関係上ひとり組合にのみ右妥結案を上まわるベースアップをすることは労務政策的見地からも不可能であり、会社の提案を貫徹するほかはないと決意して強くこれに固執し、また組合側も当初の要求面の一人平均八、五〇〇円ベースアップ、うち七、〇〇〇円は一律に加給とするとの案に固執し一歩も譲る態度を示さなかつたため、ここに昭和四〇年春季要求をめぐる会社と組合との団体交渉は全く平行線をたどつて容易に進展しなかつた事実を認めることができ右認定に反する証拠はない。

三本件ロックアウトに至るまでのストライキ等の態様

<証拠>をあわせると次のとおりの事実を認めることができる。

すなわち

(一) 第一波スト(四月二〇日午後八時三〇分から同一〇時三〇分までの二時間)に際しては組合は、組合員約一五〇人を動員し組合員担当の車両約六〇台を本社前に集結したが、その際相当数の組合員は、同月一九日会社がストライキに備えて車両の保管場所は本社綜合車庫とする、自動車検査証及びエンジンキイはすみやかに所属長に返還すること、その他車両の保管については会社の指示によることとの組合に対する通告を無視し、相当数の車両のエンジンキイ、自動車検査証、自動車損害賠償責任保険証明書等を正規の場所に返還せず、右スト時間が勤務交替時にあたつていたため新に就労すべき従業員に対する車両の受渡が円滑を欠き、かなりの就労遅延を生ずるに至つた。なお六本松、清川等の営業所に所属する車両計十数台をもすべて本社に集結したため、会社は同営業所等に所属する正常就労運転手(自動車労組員)または中立従業員を会社のマイクロバスによつて本社まで運送する必要を生じ、このためにも若干の就労遅延を生じた。

もつとも会社が前示四月一九日の通告に基づき、六本松、清川営業所等に所属する車両を同営業所の長に返還することを指示した事実は本件全証拠によつても認められない。第二波スト(四月二八日午前六時から午前一〇時までの四時間)に際しては、組合は前回同様ほぼ一五〇人の組合員を動員し、同年四月二七日会社が組合に対しストライキを実行する場合は車両の保管場所は原則として本社車庫にし、第三事業部所属車両は六本松営業所に、第五事業部所属車両は清川営業所に保管すること、車両に付随する一切の物件は事前に所属長に返還すること、非組合員の就労の妨げとなる一切の行為を行なわないこと、鉄道営業法、日本国有鉄道営業規則に違反する一切の行為を行なわないこととの趣旨の通告及び後認定(四、本件ロックアウト及びそれに至るまでの経緯の項)のとおりの事情により博多駅構内での争議行為を極度に恐れている会社が四月一九日付で組合に対してした国鉄博多駅構内における不当な争議行為を行なわないようとの強い警告を無視し、数十台の車両を無断で持ち出して、これら人員車両を国鉄博多駅構内に集結せしめた。

しかしながら後認定のとおり博多駅構内における組合の争議行為を極度に恐れる会社の強い説得により、組合は約一時間後の午前七時ごろ動員した組合員らをその無断で占有した車両とともに本社付近に移動させ、同所で午前一〇時までストライキを実行した。

第三波スト(五月七日午前一〇時から午後三時まで、但しうち一時間は昼食休憩時間)に際しても、組合は会社の前認定の通告、警告を無視し、組合員約一五〇名を動員し、会社車両約六〇台を無断で管理、運行し、車両フロントガラスに「スト決行中」と記載したステッカーを貼りつけてこれを同駅裏構内に集結させ、労働歌等を高唱しつつストライキを実施し、ストライキ中は組合員中四〇人ないし五〇人程度の者が同駅表構内に進出して、同所タクシー乗車口で正常就労中の会社運転手(自動車労組員または中立従業員)にストライキに協力することを呼びかけ、中には客を乗車せしめようとして車体ドアを開こうとしているのを外部から閉め、或いは車両内に乗り込んできて会社に協力しないで駅構内から退出するよう執拗に申し向けて下車の要求に応じない者もあり、そのため博多駅構内で営業中のタクシーの流れは他社の車両も含めて多少渋滞混乱し、会社は同駅長から駅構内を無許可で使用している組合員らを退去せしめるようとの申入を受けたので、直ちに組合に対し駅長から右申入のあつた旨、及びその趣旨により早急に構内から退去すべき旨並びに右要請に応じないときは強硬な措置をとる旨の通告をしたが、組合はこれを無視し、午後三時ごろまで車両を管理したままストライキを続行した。

第四波スト(五月一四日、二四時間ストライキ、但し実質的には同日午前一〇時から翌一五日午前二時三〇分までの一六時間三〇分)に際しては組合は前同様組合員一四〇ないし一五〇名を動員し、会社の車両約六〇台を無断で持ち出して管理、運行し、同駅裏構内に集結し、その後大部分の者が駅表構内に進出してそのうち一部の者は前同様車両内に乗り込み説得したり、或いは車両ドアの開扉が著しく困難なように車両周囲に立ち塞がつて、稼働を妨害し、前回同様五月一四日に同駅長から会社に宛ててなされた無許可で駅構内を使用している組合員を退去せしめられたいとの旨の申入書に基づき会社が同組合に対し右申入があり、その趣旨により駅構内における不当な争議行為を中止して退去すべき旨及び右要請に応じないときは強硬措置をとる旨の警告を無視し、午前二時三〇分までストライキを続行し、さらに同日夜になるや、その不法に管理する約六〇台の車両を連ねて本社に赴き、団体交渉を要求して拒否されるや再び右車両を連ねて同駅裏構内に帰来し、同所で一般大衆に訴えるための宣伝活動を実行した。

(二) なお以上の組合による各車両の管理占有は、ハイヤー、タクシー運転手にとつてその職場は車両内にあるという企業の特異性から、そのストライキのためには職場である車両を組合において管理占有して行動することは当然だとする観念に基づくものである。

(三) また特に第二波スト以後車両を駅構内に集結せしめたのは組合のストライキのみによつては右ストライキ実施中といえども自動車労組及び中立従業員、その他新規採用者等が就労していた会社に経済的痛打を与えるに十分ではなく組合の立場を同業他社のハイヤー、タクシー運転手及び一般市民に訴えて、その理解、応援を求める必要があるとの判断に基づくものであるとともに、前認定のとおり会社が駅構内での組合の争議行為を極度に恐れていたため、同所でストライキを実行することにより会社を窮地に追い込みよつて交渉を有利に展開しようとの意図に出たものである。

(四) また組合は五月一四日ストライキ実行より前の午前二時ごろ、組合の要求事項等を記載したビラ約一、〇〇〇枚を会社本社社屋、六本松営業所、清川営業所、馬場新町営業所の社屋、施設に貼付し、特に本社玄関のガラス張りドアーには約三〇枚のビラが殆んど全面を覆うように貼られ、本社階下から二階点呼室、仮眠室に通ずる階段踊り場にある縦七〇ないし八〇センチメートル横約一メートルの鏡にも全面にわたつてビラを貼付した。

四本件ロックアウト及びそれに至るまでの経緯

会社が原告ら主張の日時に原告ら主張の本件ロックアウトを組合に対してなし原告らの就労を拒否したことは前示のとおり当事者間に争いがなく、<証拠>をあわせると、次のとおりの事実を認めることができる。

すなわち本件争議に先立ち昭和三九年一一月一七日国鉄博多駅構内において組合が争議行為を実行した際、会社は翌月一八日同駅長から、今後再び同種の争議行為を同駅構内でなさしめないようもし同種行為を繰り返すならば国鉄当局は断乎たる措置をとる旨書面による警告を受けており、前認定のとおり構内営業権に強く執着していた会社としては、右警告を重視し構内権の取消または更新拒否等の事態発生を忘れて、そのころから組合の駅構内における争議行為の対策に苦慮するようになり、前示昭和四〇年三月三一日のストライキ通告後第一波ストの前の同年四月一七日組合の良識に訴え駅構内において不当な争議行為を行なわないよう、もし実行されるなら断乎たる措置をとる旨を警告し、その後もストライキの態様に応じ車両の持出し、駅構内における争議行為に対し強い態度で警告を発してきていたところ、前認定のとおり組合は右警告を全く無視し、ストライキは回を重ねるに従い強力さを増し、更には昭和四〇年五月一八日第八回団体交渉の席上組合幹部から翌一九日以降は更に強力なストライキを実行する予定につき組合の賃上要求を認めるようとの趣旨の発言がなされたうえ翌一九日には組合が従前より一層強力な二四時間以上のストライキを反復実行するとの情報を入手したので、会社においても組合は前回同様車両を占有して博多駅構内でストライキを行なうものと推測し、ここに同日深夜会社代表者吉嗣正喜は急遽会社取締役らを招集協議した結果、五月一九日午前八時三〇分以後本社並びに六本松、作人町、清川及び馬場新町の各営業所につき本件ロックアウトを実施することを決定し、有刺鉄線によつてバリケードを設置して組合員の立入を阻止し、組合が車両を占有することを妨げ、原告らの就労を拒否するとともにそのころ原告山本義森(組合執行委員長)に対し右趣旨を書面で申し入れ、同原告は同日午前一〇時五〇分ごろ右申入書を受領した。

五組合による就労の申入及びこれに関する労使双方の態度

<証拠>をあわせると次のとおりの事実を認めることができる。

すなわち会社は五月一九日午前八時三〇分から本件ロックアウトを実施し、同日午前八時二五分ごろ右ロックアウト宣言を書面に記載して本社前に貼り出す、前認定のとおりハイヤー、タクシー運転手のストライキには当然会社車両の持出、管理まで可能であるとの立場をとつていた組合としては、右ロックアウトによりストライキは実施不可能になつたものと判断して同日午前一〇時から実行する予定のストライキを中止することとし、直ちに会社経理部長小森茂保に就労を申し入れ、同日午前一〇時ごろ開催された執行委員会においても原告井上の右就労申入の措置を承認し、組合はその後の事情により再びストライキを実行することを当然の前提として原告山本義森(組合執行委員長)名義の書面により同日午前一〇時三〇分ごろ組合に対してのみ向けられ、自動車労組員及び中立従業員の稼働を認める右ロックアウトは組合の組織の破壊を目的とする攻撃的ロックアウトで違法であるとし、その解除、就労を申し入れ同日開かれた団体交渉(第九回)をもつて就労を要求した。

会社は、右就労申入が時間的にあまりにも本件ロックアウトの直後すぎること、従来の組合の争議戦術、前示就労申入書はロックアウトの違法性のみを強調する面が強く、組合が誠意をもつて団体交渉をする期間は正常に就労する意図であるか等の就労申入意思の具体的内容を全く明らかにしなかつた等の点から右申入は単なる争議戦術の一環ないし将来起り得る本件ロックアウトの違法性に関連する訴訟事件において提出、利用する証拠を作成しておこうとの意図に出たものにすぎないものと判断し、就労の真意は認められないとして右申入を拒否し、本件ロックアウトを継続することにした。

その後組合は連日本件ロックアウトの解除、就労の申入を書面により会社にし(もつともいかなる態様で就労するのかはなんら明らかにしていない。)あわせて四回に及ぶ就労に関する団交申入(五月一九日、二五日、二七日、二八日の四回)をした結果、五月二九日の午後一時から福岡市内旅館つぼにおいて団体交渉(第一〇回)がもたれ、会社側は組合の質問に答え就労の意思が認められるならば本件ロックアウトを解除して就労させる旨を回答し、組合側からさらにいかにすれば就労の真意を認めるのか重ねて質問したところ、会社側は前示賃金値上等に関する会社側提案を組合が了解し、平常業務を阻害する一切の妨害行為をしないこと、会社施設に貼付したビラを剥離することの三条件を提出し、午後三時四〇分ごろ一旦休憩に入り、同日午後八時再開された団交席上では会社は右三条件を撤回し新に国鉄博多駅構内での一切の争議行為を行なわないこと、平常業務を一切妨害しないこと、ビラを組合の責任で撤去することの三条件を示し、組合は右条件を検討することとして同日の本件ロックアウト解除に関する団体交渉は一旦打ち切られた。

六月三日午後一時前記旅館で第一一回団体交渉がもたれ、会社側は前認定の三条件につき組合が争議権に基づき適法な争議行為をすることは認める、博多駅構内の争議行為については会社に対し第三者から圧力が加えられるため本件ロックアウト解除のためには一切その中止を求める、単純な就労拒否を越え正常就労者の業務を妨害しないことが本件ロックアウト解除の条件である旨敷衍して説明した。組合側は会社提示の三条件に対する態度を明らかにすることを拒否し交渉は妥結しないまま終つた。

その間会社は五月二五日書面で組合に対し正常就労の意思、態勢の有無、右意思、態勢があるとするならばその具体的事実につき回答するよう求め、さらに五月三〇日には前認定の会社提示の三条件(構内争議の中止、正常就労者の業務妨害の禁止、ビラの剥離)により組合の就労を認める旨通知したが、組合は右に対して特に態度を明らかにすることをせず六月三日から同月二六日までの間殆んど連日無条件就労を要求する旨の書面を会社に提出し、六月六日には会社の条件につきさらに質問をしたい点が残つているので団体交渉を開かれたい旨の要求をしたが、会社は前示第一一回団体交渉の開かれた六月三日以降は組合に就労の真意はないものとし、団体交渉を拒否して就労要求を全く無視する態度に出た。

また会社は本件ロックアウトによる稼働率の低下のため一時かなりの営業収益の減少を見たが、本件争議に参加しない前示自動車労組員及び中立従業員(当時の員数は前示二(一)冒頭認定のとおり)並びに十数名の新規採用者や組合からの脱退者らによつて依然操業を継続しその業績は次第に回復した。

六本件ロックアウトの解除とその後の事情等

<証拠>をあわせると次のとおりの事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

すなわち原告らは本件ロックアウトを適法であると主張し、右ロックアウト期間中の賃金の仮払を命ずる仮処分命令の申請を当裁判所にし、当裁判所は昭和四〇年一〇月三〇日本件ロックアウトの違法性につきおおむね原告らの主張を認め右期間中の賃金の一部の仮払を命ずる判決をしたため、会社は右判決に対して控訴の提起(後に取り下げた。)はしたものの同日をもつて本件ロックアウトを中止し、翌一〇月三一日から原告らの就労を認め、ここに一六五日に及んだ本件ロックアウトも終結するに至つた。

なお組合はその後前認定の昭和四〇年の春季要求についてた会社の提案を認めて交渉は妥結し、その後昭和四一年の組合の駅構内ストライキをも理由とし国鉄博多駅からの勧告もあつて会社は昭和四一年九月末日限り約四〇年間保持してきた構内営業権を自ら返上放棄したが、構内営業用タクシーを一般営業用に転用し、これに乗車料金の値上げ、利用者の増加等の有利な事情も加わつたため営業収益の減少は見ないで今日に至つている。

七組合の争議行為の違法性に関する当裁判所の判断

労働組合のなすストライキは、使用者との間の雇用契約を存続せしめつつ、労務の提供を集団的に拒否することにより、使用者に対し圧力を加え、これにより労働条件に関する自己の要求を貫徹する手段たらしめることを本質とするもので、右労務提供の拒否に付随し会社通念上相当な範囲内で組合員以外の者に対し組合の立場を宣伝、説明し、ストライキに対する一般の協力を要請すること等も容認されるけれども、ストライキに際し使用者が適法に管理、占有すべき物件、施設をその意思に反して組合の管理下に移す等使用者の管理権限を侵す行為は許されず、また当該企業内に特に争議当初から組合の争議に加わらず正常に就労する他の労働組合または労働者があるときは、これに対し有形力を加えまたは脅迫する等してその業務を妨害することもまた違法である。

これを本件についてみるに、ストライキに際しエンジンキイ、自動車検査証等を正規の場所に返還せず、これにより正常就労者との勤務交替に支障を生ぜしめ(第一波スト)、会社の車両数十台を勝手に持ち出し、会社からの再三の勧告、警告を無視して博多駅構内に集結せしめ(第二波ないし第四波)、勝手に持ち出した車両を連ねて博多駅、本社間を往復する等の行為(第四波スト)及び会社施設に前認定のような多数の闘争ビラを認定のような態様で貼付することの違法であることは勿論、駅構内で稼働中の従業員が客を乗車せしめるため車体ドアを開扉しようとするのを外部から閉め、或いは車両内に乗り込んできて退出の要求に容易に従わず執拗にストライキに対する協力を要請する等の行為もまた社会的に相当なストライキに対する協力要請の範囲をこえ違法というべきである。

八本件ロックアウトの違法性に関する判断

一般にロックアウトは使用者のなす争議行為でこれにより賃金支払義務を免れ、また労働者を自己の管理する場所、各種物的設備から排除しようとするものであるが、労働組合のする争議行為と異なり、憲法上も労働関係法上もこれを積極的に容認保障する規定はなく、またロックアウトは労働者に対し生活の源泉である賃金収入の杜絶という物質的損失にとどまらず、これに伴う生活上の脅威やロックアウトの対象となつていない第二組合等が存する場合の組織分裂の危険等相当な苦痛を与えるものであるから労使の実質的衡平を保持するため、使用者のなすロックアウトには重大な制約が要求されるのは当然であり、原則として労働者の側から争議状態に入る以前に先行的にロックアウトを実行することは勿論、労働者側がすでに争議状態に入つているときでも、その規模、方法に対応する相当な限度を越えてロックアウトを実行することは許されず、たとえ適法なロックアウト開始後においても四囲の事情からロックアウトが対抗的、防衛的性格を失い、労働者に痛打を与えてこれを屈服させ、さらには労働者の団結権そのものを脅かす性格に転化した場合は、右ロックアウトは違法となるものというべきである。

(ロックアウトの対抗性、防衛性)

これを本件についてみるに組合は昭和四〇年三月三一日のストライキ通告により会社との間で基本的に争議状態に入り、その後の争議行為は前認定のとおり違法な部分が多く、しかもその行動は日を追うに従つて激化し、そのため会社は博多駅長から厳重な警告を受け、従来会社の名誉に関するものとして重視してきた構内権をも喪失するおそれが大となつてきたのであり、ことに組合による車両の持出、管理とその博多駅構内への集結建物、施設に対するビラ貼り行為等に対抗するためには、組合を会社社屋その他の会社管理にかかる諸物件、施設から全面的に閉め出す必要のあつたことを優に認めることができるから、本件ロックアウトはその実行当初においては適法であり、また前認定のとおり組合の態度が会社の本件ロックアウトの違法、不当を責めるに急で、就労請求は単に右ロックアウト解除の附属的なものと解せられなくもない事情下にあつては就労申入に関する組合の意思の具体的内容は全く明らかでないのであるから、会社が直ちに就労の申入を受け入れなかつたからと云つてロックアウトの継続が直ちに違法となるものでもない。

しかしながら前認定の組合の争議行為は昭和四〇年三月三一日のスト通告により会社との間で基本的に争議状態に入つたとは云え、現実に実施するストライキは若干の日時をおいての波状時限ストライキであり、同年五月一九日に実施予定であつたストライキも前認定の後、前の経緯からすれば二四時間ないし四八時間の時限ストライキの域を出ないものと推認され、しかも組合は各波のストライキの前にその都度予めその実施時間の概要を会社に告知していたことが<証拠>により認められるから、他に特段の事情なき限り組合のストライキに対抗すべき会社のロックアウトも予め本件の如き無期限という長期ロックアウトを予定する必要性はその根拠に乏しいものと解せられ、また弁論の全趣旨によれば昭和四〇年五月ごろには同業他社労使間では春季要求に関する交渉は逐次妥結しはじめていたこと及び会社、組合間の春季要求に関する交渉は例年数ケ月または十ケ月以上に及びその期間を組合が断続的にストライキを実行したようなことはないことも認められ、右各認定に反する証拠はないので、会社組合間の昭和四〇年春季要求に関する交渉も、本件ロックアウト開始の昭和四〇年五月中旬頃にはすでに時期の推移及び同業他社の妥結状況等に鑑み労使双方誠意ある努力により何らかの形において妥結すべき時期に近づいていたものと推認され、他方前示のとおりストライキに参加する組合員数が一三九名(うち運転手一三八名)であるのに対し二八九名(うち運転手二〇九名)に及ぶ自動車労組員や一三三名(うち運転手一二一名)の中立従業員らは正常に就労しており、しかも会社は十数名の運転手を新規雇用してスト組合員の労働力を一部補充し、ストライキによる損失を最小限度にくい止め得たのであるから本件ロックアウトにより労使間の力関係はその当初からやや会社の優位に傾いていたと云うべきである。

しかも本件においては前認定の如く会社が本件ロックアウト解除の三条件として組合に示した事項の意味内容は闘争ビラの剥離の点をのぞいては必ずしも細部に至るまで明瞭なものとは云い難く(たとえば駅構内の争議行為でも構内広場等において社会的に相当な方法で平隠に組合の宣伝ビラを一般通行人に配付する等の行為まで会社に対する関係で違法になるものとは解せられず、また勤務交替時間にストライキを実施する場合は、実際上多少の引継の混乱を生ずることは避け難いところ、会社がかような行為をもなさないことを本件ロックアウト解除の条件としているのかどうか明らかではない。)、組合が右会社提示の条件の意味内容を明らかにするため団体交渉を要求することは十分合理的なことであると考えられるのに、組合の就労申入が真意に基づかないものとも確認できない前示事情下で会社は、前認定の六月三日の第一一回団体交渉を最後に六月六日の質疑のための団体交渉要求を拒否し、その後の連日の組合の就労要求を無下に真意に基づかないものとして全く無視し、昭和四〇年一〇月三〇日に至るまで実に一六五日の長期に及ぶ本件ロックアウトを継続実行したものであり、さらに<証拠>によれば右団交拒否とその後の就労要求の一方的無視の態度は本件ストライキの当初から会社社長吉嗣正喜が種々事情を検討、考慮した結果、昭和四〇年六月六日までにロックアウトを解除しても会社提示の賃金増案額を組合が受諾しないかぎり結局再度ストライキの発生を見るに至るからその受諾に至るまでは断乎として本件ロックアウトを継続し組合を屈服させようとの意思を固め、右確定した意思に基づきとられたものであることが認められる。

以上によればおそくとも六月六日会社が社長吉嗣正喜の前認定の確定意思に基づき組合の団体交渉要求を拒否した以後の本件ロックアウトは組合の違法争議行為に対する対抗的、防衛的性格を失い、組合のストライキの規模方法に対応する限度を著しく越え原告ら組合の就労を拒否し、これに賃金を支払わないことにより組合に対し打撃を与え、これを屈服せしめて賃金増額に関する前示会社の提案、主張を貫徹し、さらに組合の団結権を脅やかす攻撃的性格のものに転化したものと云うべく、従つて同日以後のロックアウトは違法である。

九原告らの賃金請求権について

前示のとおり昭和四〇年六月六日から同年一〇月三〇日までの一四七日間の本件ロックアウトは違法であり、その間原告らが就労できなかつたのは会社の責に帰すべき事由に因るものと云うべきであるから、原告らは民法第五三六条第二項本文の規定により右期間の賃金を会社に対し請求し得るところ、原告らの四月以前の三ケ月間の平均賃金月額が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、原告らのハイヤー、タクシー運転手たる職業、一交替二四時間制の前認定の勤務形態等をあわせ考えれば他に特段の事情の主張立証のない本件では、右期間中の賃金は右平均賃金を基礎として計算するのが相当で、これにより計算すれば原告ら各自の前記期間中の賃金額は別表認定賃金欄に記載したとおりとなる(なお、右算出については七月ないし九月の分につき平均賃金月額に三を乗じ、六月及び一〇月の分については平均賃金月額をその月の総日数で除し、これに当該月の違法ロックアウト日数を乗じて円末満を切り捨て、これらを合計して算出している)。<以下略>(松村利智 石川哲男 安井正弘)

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